「宝石は水から生まれる」こんなフレーズを聞くとエッ?!と思う人が多いだろう。しかし水科学の専門家によれば、鉱物である宝石は岩石中の水に含まれるミネラルが結晶してできたもの、つまり宝石の生みの親は水ということになるらしい。
古代の人々は、こうした科学的知識はなかったものの、無色透明な水晶を見て“決して溶けることのない固い氷”と考えていたという。そして確かに水晶の中には結晶の過程で取り込んだ水をそのまま持つ「水入り水晶」なるものがあるそうだ。
よく知られているように、水晶は石英の結晶体だが、含有されている鉱物によって色彩が異なることが分かっている。チタンと鉄を含むと紅色に、鉄分が多くなると黄色や紫色の結晶ができ、アルミニウムが含まれるものは煙水晶と呼ばれて茶色がかった半透明なスモーク状になる。
私が持っている水晶は、亡くなった母が網代網の小さな葛籠に入れて残してくれた径3センチほどの透明な玉だ。どんな謂れのあるものかは聞きそびれてしまったが、時折、取り出して中世の占い師のように玉の中を覗いてみる。しかし残念ながら玉の中には現実の風景が転倒して写っているだけだ。
有限な人間が信じている【正常な世界】は、もしかしたら水晶玉の逆転した世界にすぎないのかもしれない。そう考えると人間の手業とは無縁な岩石の中で、ユックリ、ユックリと魔法のように姿を変えていく「水の水晶」はまぎれもない神の奇跡のように思える。
悠久の時を静かに抱えて地中から私たちの前に姿を現す時、結晶体は世俗的な価値をはるかに越えた「時間」と「宇宙エネルギー」の感嘆すべき偉大な業の価値を私たちに教えているのではないだろうか。まさに「宝石」の名にふさわしい存在として――。
≪参考図書≫
「水資源の科学」鹿園直建(オーム社)
「結晶と宝石」Dr.RF SYMES(同朋社出版)
Dr.RR HARDNG
リリーフ・システムズ訳
ライター:林 夫左
学校では油絵・建築・インテリアデザインを学ぶ。20代からアート活動と同時に、ライターとして出版や広告の仕事も兼業。30代からは自宅で小さなアトリエをスタート。子供達と造形遊びに熱中!現在は母親となったかつての生徒達とママさん絵本教室が進行中。